ポルシェのミッドシップ・オープン新旧比較
718スパイダー/981ボクスタースパイダー
最新のポルシェが最良のポルシェか!?

文・内田栄治

ポルシェのミッドシップ・オープンモデル「ボクスター」。フラッグシップモデルにあたるのが「スパイダー」である。その最新モデル「ポルシェ718スパイダー」とひとつ前のモデルにあたる「ポルシェ981ボクスタースパイダー(以下981スパイダー)」を乗り比べることができた。果たして“最新のポルシェは最良のポルシェ”なのか?  それともモデル末期に登場した先代スパイダーに一日の長があるのか? 貴重なレビューをお届けする。

モデル末期にスペシャルなモデルを台数限定で送り出してくるのがポルシェの常套手段だが、981スパイダーはまさにそうしたモデル。次期718ボクスター/ケイマンが、ダウンサイジング化により4気筒ターボエンジンとなることが明確になった後、6気筒を積む981ボクスター・シリーズ最後の特別モデルとして2015年春に発表された。

ソフトトップ開閉を手動にしたり、電子制御サスペンション「PASM」を省くことなどで車重を1,350kgに軽量化。このライトウェイトボディに、ポルシェ911カレラSと同じ3.8L・フラット6自然吸気エンジンを搭載する。最高出力は375psでトランスミッションは6速MTのみ。当時の新車価格は1,012万円だった。

一方、現行型の718ケイマン/ボクスターは2L・4気筒ターボエンジンがメインとなるが、この718スパイダー(このモデルから“ボクスター”の名が省かれた)は特別なモデルとして新開発の4L・フラット6の自然吸気エンジンを搭載する。


こちらは最高出力420psで車重は1450kg、トランスミッションはやはり6速MTのみで価格は1,238万円。現在カタログモデルとして購入可能である。

数値で2台を比べると、現行の718スパイダーはちょうど100kg重くなっているが、車重/出力のパワーウェイトレシオを求めると、981スパイダーの3.60kg/psに対して718スパイダーは3.45kg/ps。
そのスペック上の優位性を証明するように、カタログ値では981スパイダーは0-100km/h加速が4.5秒、最高速が290km/hに対して、718スパイダーは同4.4秒、301km/hとなっている。つまり車重増を十分補って余りあるパワーアップが図られているということだ。

両者のデザインを比較してみよう。
フロントまわりではエアー取入れ口の形状やフロントスポイラー下部の意匠が異なる。981スパイダーがボディ同色のフロントスポイラーなのに対して、718スパイダーは黒い樹脂製で、そこに「Spyder」のロゴが入る。
また、リアのデザインはよりモダンな雰囲気となり、マフラーもセンター2本出しから左右2本出しに変更になった。

718スパイダーで朗報なのが、幌の色が選べるようになったことである。
981スパイダーは黒一色だったが、718スパイダーは黒に加えてバーガンディの幌も選べるようになった。
インテリアの主な違いは、エアコンの吹き出しの形状が四角からかまぼこ型に変わったのとオーディオのスイッチが変わったこと、そしてステアリングとシフトノブがアルカンターラから通常のスムーズレザーに変更になった。
今回比較試乗した2台は、どちらもオプションのクラシックインテリア仕様だったため、その違いはオーナーでなければわからないほどの差異だ。

さて、乗り込んでみる。
718スパイダーのオドメーターは走行距離3,000kmを刻んでいる。慣らし運転が終わったぐらいだ。
ハンドル位置は右(981スパイダーは左ハンドル)で、着座しシートを合わせると若干ペダル類が左にオフセットしているのを感じる。とはいえ違和感を感じるほどではなく、しばらく乗っていれば気にならなくなるが。

標準のバケットシートを備える981スパイダーに対して、718スパイダーにはオプションのフルバケットシートが装着されていたため、シート座面の上下の調整もでき、かなり低い着座位置に調整が可能だった。
これは身長が高い人にはありがたい装備だと思う。座った感じは、981スパイダーよりシートのサイドサポート幅が少しゆったり感じられた。ただしこのシートを選ぶとシートヒーターがつけられなくなるという。

いよいよエンジン始動。
クラッチを踏むと思いのほか軽い。右手でエンジンキーを回すと「フォン!」という音とともに軽やかにエンジンがかかった。始動の瞬間もアイドリングもとても静かだ。これも時代の要請かと思うが、981スパイダーのような威勢のよいエンジン始動音を期待すると肩透かしをくらう。

走り出してすぐに感じるのは、乗り心地の良さだ。
サスペンションの設定は「SPORT」を選んだが、それでも981スパイダーより明らかに快適だ。車重増が良い方向に作用しているのかもしれない。また低速トルクも増していて、発進時のクラッチミートも気遣いは不要だった。

排気音は981スパイダーの甲高い音に対して、718スパイダーは野太い音を発する。スポーツマフラーをONにした状態でも比較的控えめな音だ。高回転域で雄叫びを上げる981スパイダーに比べると、少し物足りなさを感じる。また718スパイダーはまだ走行距離が少ないためか、エンジンがやや重く感じられた。

コーナリングは軽快感のある981スパイダーに対して、718は重厚な印象だ。鈍重ということではなく、より精緻に高級になった感じである。ミッドシップ・ポルシェの美点はやはりコーナリングにあり、ドライバーを中心にクルマが曲がっていく感覚は新旧とも同じだった。

この両車、981スパイダーは軽快な動きとスムーズに吹け上がるエンジン、そして何よりエキサイティングな排気音が美点だ。オープンの爽快さとロードスポーツの楽しさを兼ねそなえている。
対して718スパイダーはより重厚感と高級感が増し、速くなった上に乗りやすくなった。ポルシェ流の正常進化だと感じた。

スタンダードのボクスターとは一線を画す特別モデル 718スパイダー。981スパイダーに比べて200万円も高価になってしまったのは気になるが、それでもこのクルマを検討している人はぜひ手に入れるべきだろう。
いつ生産終了になるか分からないし、現在の電動化の動きもを考えるなら、次のスパイダーにフラット6エンジンが搭載されるかどうかは甚だ怪しいからだ。

(車両解説)

PORSCHE 981 BOXTER SPIDER
ボディサイズは全長×全幅×全高が4,414mm×1801mm×1,262mm。
エンジンは3.8リッターフラット6で375PS/6,700rpmの最高出力と42.8kg・m/6,000rpmの最大トルクを発生する。
タイヤサイズはフロント235/35ZR20、リア265/35ZR20。ピレリのスポーツタイヤ「Pゼロ」を装着。
スポーツクロノパッケージは標準装備でトランスミッションは6速MTのみ。
当時の新車価格は1,012万円だった。
(Photo/Masatoshi Kikkawa)

PORSCHE 718 SPIDER
ボディサイズは全長×全幅×全高 4,430mm×1,801mm×1,258mm。
エンジンは4リッターフラット6で最高出力420PS/7,600rpm、最大トルク42.8kg・m/5,000-6,800rpm。
タイヤサイズは911GT3と同じでフロントが245/35ZR20, リアが295/30ZR20、ミシュランの「パイロットスポーツ・カップ2」 を履く。
6速MTのみで価格は1,238万円。
(Photo/Masatoshi Kikkawa)

(著者プロフィール)

内田栄治
横浜市出身の59歳。IT業界に身を置きながらも、服飾関係やクルマ業界に友人知人が多く、銀座でファッションやクルマ、写真などのトークショーを開催。自身も複数の英国車を所有するクルマフリークで、94年のジャガーXJ-S DHCが現在のお気に入り。