茨城編 花抜き渓谷

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

「う~ん、いろいろ酷いね・・・。」
「いろいろ、ですか?」
「ダメだ。もうグラグラだ。よし!もう抜いちゃおう!」

「んぎぃ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!」

いまさらながら思う。以前執筆した『準備編』の項目に、ぜひ一つ追加しておけばよかった。
歯医者、絶対に、行っといたほうがいいよ。

幸い、茨城はひたちなか市にバイク乗りの友人がいてくれたおかげで、泊まり込んで二日間の治療を受けることができた。
その友人に「茨城のおすすめってある?」と聞いたところ、「なんも思い浮かばない」と返ってきたため、福島の実家住みの頃から“カッコイイ名前だ”と気になっていた『花貫渓谷』なる場所へ行ってみることにした。

「この時期に花はないだろう」と言われたが、せっかくの機会だからと友人を連れ立たせた。“時期じゃない” “いまじゃない”と言い訳を繰り返し、行きたかったところへも行けず、言いたかった言葉も言えず墓石に埋もれてしまいがちなのが人間だ。

国道461号線から、谷底へと続く道を下る。道幅は狭いが、ロケットⅢでも通れそうだ。
たどり着いてみると、やはり花は一つも見当たらなかったが、驚嘆の光景がそこにはあった。

キャンプしてる人がめっちゃいる!
我が目を疑う。
なぜだ? けっこー寒いぞ? それに、花も一つもないぞ?? 3連休初日だからテンション上がっちゃったの?? どんだけキャンプ好きやねん!

そんな混乱はひとまず頭の片隅に追いやり、渓谷を少し散策してみる。
土岳や多賀山系の水を集めた花貫川が臨める花貫渓谷は1.2㎞。そこまで大した距離じゃない。

地元特産のスギ材を用いた加工丸太を、計361本も使ったという汐見滝吊橋。
なるほど渓谷沿いを走ってもいいが、この橋を歩いて渡っても、まさに花を貫くような気分が味わえるというわけだ。
「ただし、シーズンだったらね」なんて、寒々しい木立を見ながら友人と苦笑していると、不意に雲の合間から陽が差してきた。その時。

対岸が見えないほど眼前を埋め尽くした無数の枝が、一斉に光を浴びて細やかに白く輝いた。
その一瞬が、私には確かに群生した花のように見えたのである。

「いや、もしかしたら、この時期ならではの愉しみ方もあるのかもしれないね」
キャンパーたちを馬鹿にできないな。
別になんでもかんでも、シーズンに訪れなくてはいけない決まりなどない。”花が咲いたら”と想像を膨らましながら、枯れ木を見るのも「いとをかし」じゃないか。

四季を巡りながらの旅は、こういう発見があって、良い。