栃木編 願わくばこの一枚、

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

まだまだ冷える奥日光から逃げてきた私が、寝床を求め大田原市を訪れた際。目に入ったのは、「那須与一の町 大田原市」という看板だった。

那須与一といえば、源平合戦における屋島の戦いにて、源 義経の命により余興として掲げられた平家の船上の扇を、一矢で射抜いたという伝説を持つ武将。
「あぁ、そうか。那須与一の那須って、栃木県の那須のことだったのね・・・」
一夜明かし、『道の駅 那須与一の郷』を訪れてみると、まさに波に馬を沈めて扇を射る瞬間の姿が見られた。

道の駅に併設された『与一伝承館』は、例の如く新型コロナの影響で閉鎖中。呆然としていたところ、地元のおばさんが声をかけてくれた。
「遠方からせっかく来たんなら、駅の裏にある那須神社を見てってよ。何百年も前から変わらない姿であって、桜も見ごろだから」

『那須神社』は、中世・近世を通して那須氏、大関氏の氏神として祀られてきた八幡宮。与一が扇を射る際、心の中で必中を祈った神社がここだ。
参道の正面へ回ってみると、正直“こんなところに”と思ってしまったほど立派な杉並木が目に入る。

さらに目を凝らせば、鳥居の奥にはちらちらと白い花びらが。“あぁ、あれがおばさんの言ってた桜ね”とさっそく近づこうとしたが、はたと立ち止まった。

“もしや、このロケーション・・・ 望遠レンズの出番では?”
現代旅人にとって、写真は貴重な旅の楽しみの一つだ。自分が味わった感動を、一枚の写真にいかに残すか。工夫を凝らせばいくらでも姿を変える写真は、手ごろながら奥深い・・・。
私も写真を上手く撮りたい人間の一人として、念のため望遠レンズを持ち歩いていたのだが、これまで使えそうなロケーションがなかった。

バックパックから望遠レンズを取り出し、換装。
最大までズームすると、奥の石鳥居の色と、桜の花弁の一つ一つが見分けられるほど液晶の映像が拡大される。が、少しでも指を動かせば、映像が瞬く間に傾く。手ブレを抑えるのが難しい。
“三脚を使う”という考えも頭をよぎったが、却下した。ここは那須与一ゆかりの神社。彼が三脚を使ったか? 己が腕で撮らなければ、興が冷める。

腰を据えて、肘を膝に乗せ。息を殺しながら、わずかな手の揺れのなかで、鳥居の横っ柱が水平をとる瞬間に全神経を注ぐ。

“願わくばあの桜と鳥居、この一枚に収めさせたまへ”

・・・・・・カシャッ。

う~ん・・・。撮るには撮れたけど、ここの荘厳な感じは表現できていない気が・・・。
与一殿、私に飛び道具は不向きかもしれませぬ。

「まぁ、今後もいろいろな被写体を写していくなかで、撮影の技術も向上していきますよね。日々新しい景色に出会えることが、旅の良さなのですから」
そんなことを想いながら、賽銭を投げ入れる。次にここを訪れる際は、この桜をもっと艶やかに、切り取りたい。