埼玉編(回想) 旅立ちの日に

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

4月7日、安倍晋三首相が緊急事態宣言を発令してから、20日余りが経過した。
当初は7都府県のみが対象であった実施範囲も、今は全国へと拡大し・・・。未だトンネルの出口が遠い中で想うのは、“早く旅の続きがしたい”とはやる気持ちもさることながら、いままで走り抜いてきた地域は、会って話した人々は、どうお過ごしかということであった。

「長旅かい?」
「はい! 今日出発なんです!」
「おぉ~~いいね! そいじゃあ、良い旅をしてきてなぁ!」

3月1日、旅の初日。
信号待ちで並んだ壮年のハーレー乗りに背中を押されながら、青空の下エンジンを燃やしたあの日を忘れはしない。

16号線を伝い、神奈川から東京、埼玉へ入ったところでアクセルが緩んだ。
“旅に出たのはいいが、実感がわかない・・・”
まだ会社員だったときの習性が抜けていないのか、意外にも沸き上がったのは「罪悪感」だった。自分だけ、こんなことをしていていいのだろうか・・・。
ヤメヤメ、考えごとしながらの走行は危ない。と寄ったのが、埼玉・東京の県境に位置する『さいたま緑の森博物館』だった。

“博物館”と題しつつも、その実態は里山そのものを野外展示としたハイキングコースのようなものだ。事務所が配布するマップやコース上の看板のおかげで、遭難の心配などせずに狭山丘陵の雑木林や湿地を見物することができる。

“市民の散策路みたいなものだろう”と生やさしいものを想定していたが、コースはけっこう起伏に富んでおり長大。
最も長いルートを選べば徒歩2時間は楽しめるそうだ。
麓付近にある八幡湿地。このオブジェクトは、地元の人によって作られた守り神『トコロさん』だそうだ。
となりに住んでいて、ドングリが好きで、ネコ型バスに乗っていそうな見た目である。

里山の頂上付近に出てみると、木立が静かに佇む見通しの良い空間に出くわす。せっかくだから、ここでしばらく刀を振り回したりした。
“旅とは、ただの現実逃避ではないのか?”
そんな疑念を力づくで振り払おうとするが、ねちっこく頭に絡みつくばかりだった・・・。

軽く山を一周し、案内所を訪ねてみる。あまりにも行くあてがないので、聞き込みをしてみるのだ。
職業柄か、スタッフの方々は親切にお勧めを教えてくれた。埼玉のほか、千葉・栃木出身の方もいらっしゃったので、目的地は当分尽きなさそうである。
「グルメだったらワラジカツ試してみてよ!」
「あっ行田のゼリーフライって知ってます?」
「秩父って昔海だったから、山なのに化石が見られるんですよ~」
「手賀沼とかどうです? 日本一汚かった沼なんですよ」
「栃木だったら鹿の湯とかかな~」
「それから・・・」「あっあそこも・・・」「えっとね・・・・・・」

手帳が1日で埋まってしまいそうになったので、別れを告げようとすると、
「日本一周かぁ。いいなぁ~」
「しかも1年なんてうらやましいです、私だったらどう使おうかな・・・」
良いことだ、すごいことだと、そんな声をかけていただく。
その瞬間、心の靄が晴れるのを感じた。

そうだった。旅とは、人によってはこの上ない幸福なことで、私もそれに憧れていたじゃないか。いまさら“逃げてる”だとかウジウジしていたら、旅に胸焦がれる人たちに失礼極まりない。今日、この日のために今まで努力してきたのだから、精一杯この幸せを享受しなければ。
「ありがとうございます。俺・・・・・・頑張ります!」

あの日以来、私は旅を現実逃避だなんて思うことはなくなった。「良い身分だね」なんて言われれば、「こうしたかったから、頑張りました」と笑顔で答えることにした。

緑の森博物館も、コロナの影響を受け今は休館中。あの自然大好きなスタッフ達の、息災を願うばかりである・・・。旅が終わったら、思い出話を披露しに再び行くのだから。

さいたま緑の森博物館
埼玉県入間市宮寺 889-1
https://saitama-midorinomori.jp/
※コロナ騒動が収束してから、足を運んでみましょう!