千葉編(回想) 「昔は良かった。人が来るまでは」

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

埼玉県春日部市から千葉県野田市へと入ったのは、3月8日のことだった。酷い雨で、ずぶ濡れになりながらの県境越えだったことをよく憶えている。

“手賀沼に行ってみてください。日本一汚かった沼なんですよ!”

千葉でまず目指したのは、例の如く緑の森博物館で教えていただいた我孫子市の手賀沼だった。

この沼は一周38km。
地図だとちょこんとした水たまりに見えたが、バイクで一周りすればいい暇つぶしになりそうなぐらい広い。
雨模様であるのと、“汚かった”という事前情報をこしらえているからか、確かに沼は陰鬱とした色を讃えているように見えた。
名誉のため補足しておくが、通りかかったおば様に聞いたところ、晴れの日にはきちんと青色に染まるのだという。

北岸を少し周遊すると、『鳥の博物館』なる建物が目に入る。
入り口に近寄ってみると“開館中”の表記が! 小躍りしながら入館した。
係りの方いわく、「幸い付近ではまだコロナ感染者がいませんので・・・」とのこと。

我孫子市 鳥の博物館
千葉県我孫子市高野山234番地3号
04-7185-2212
9:30~16:30
休館日:毎週月曜(祝日は開館、翌日を休館)、年末年始
一般300円、高校大学生200円、小中学生・70歳以上・障がい者無料
https://www.city.abiko.chiba.jp/bird-mus/

館内では、春夏秋冬それぞれの手賀沼を舞台とした野鳥たちの生活が、模型付きで解説されている。

手賀沼へ野鳥がやってくるのは冬で、それから夏にかけて子育てをし、やがて晩秋にはまた旅立つのだとか。種類によってはツンドラまで渡る鳥もいるそうで、その過酷な旅路を想像すると旅人として頭が下がる思いである。

また、この時は企画展としてバンディング展も催されていた。
バンディングとは識別番号が刻印された足環を鳥に装着することで、その生態を個体から調査する手法である。

この3羽は足環を付けられ放されたのち、遺体となって発見されたものを標本としたもの。
足環のサイズは調査対象によってさまざま。
海外で遺体などが発見される場合もあるため、調査機関への連絡先などが英語等で記されている。

他にも鳥の消化器官や実際の羽に触れるなど、博物館の名に恥じない体験ができる。だが個人的に興味が沸いたのは、ここ手賀沼の歴史だった。

かつて手賀沼は、数万羽のカモが空を覆う光景が見られるほど、水鳥が多く生息する自然豊かな地であったとのこと。信じられない話だが、昭和30年ごろまでは地元民が泳いで遊んでいたほどだそうだ。
ところが周辺に多くの人々が移り住んで宅地化が進み、人々が住みやすくなった代償として水質は著しく劣化、かくして“日本一汚れた沼”ができあがったらしい。

「もう一度、手賀沼やそこに棲む鳥たちをじっくり観察してみましょう。自然との新たなつきあい方が見つかるかもしれません」
そんな静かな一文が、妙に胸に突き刺さって印象に残った。

“手賀沼の歴史館”ではなく“鳥の博物館”を建てたのは、かつての手賀沼の象徴であった野鳥をまた見るこができる地にしたい。そんな想いからなのかもしれない。

ここがまた生命あふれる沼に戻れるかどうか。それは私にはわからない。が、私でもできることはあるだろう。
恐らく今後も、私は自然豊かな場に何度となく出くわすことだろう。そのときの情景を拙いながらも文に残せたら。後世に残したい風景だと誰か一人にでも話せたら。
“昔は良かった”
そんなセリフを、少しは減らすことができるのではないだろうか。