栃木編(回想) 岩通す一念、心を動かす

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

「ここは………エジプトか?」
いいえ、栃木県です。

「お侍さん。近くに採石場があるんですが、そこは一見の価値アリですよ」
宇都宮城址の観光ガイドさんにそんなお言葉をかけていただき、拙者…、いや私は宇都宮市大谷町へ向かった。
“採石場ね…。まぁ、険しい岩肌が眺められる程度なんだろうな” と、あまり期待はしていなかったのだが、その『大谷資料館』に近づくにつれ、明らかに今まで見たことがない奇岩が多くなったこと、そして駐車場に着いてみれば・・・・・・。

岩が幾何学的に切り取られている。
なんだこの光景は。

存外かなり面白そうだと興奮した手で入館料を支払い、地下へと続く石段を降りてみれば。間もなく、エジブト考古学発掘現場のような光景を拝めるのである。

眼前にそびえたつ何メートルもの高さの岩壁。
刻まれた横縞は、かつての人々が上から下へと“手掘り”で岩を削り取ってきた跡だ。

地下へと踏み入った途端、キンとする冷気が体を包み込む。坑内の平均気温は7℃。冷蔵庫とほぼ同じ温度が、この場をどこか厳かな雰囲気に仕上げている。
この地の歴史は古く、約1,400年前・・・古墳時代のころから石室として利用されたのが起源で、採石は約100年前に本格化されたとのこと。
軽石凝灰岩の「大谷石」。知っている人は知っている有名なブランドであり、各地で建材などに使われているらしい。見かけている人も結構いるのではないだろうか。

かくいう私も、実はこの旅で既に目にしていた。足袋蔵で有名な埼玉県行田でも大谷石は使われていたのだ。

現在は採石もそう行なわれていない様子で、今日のように観光地として開放するのを主に、美術品を展示したりなど、往年とは違った形で人々に親しまれている。
日本有数と言えるこの背景を利用して、映画やミュージックビデオ、新型自動車の発表会など、さまざまな芸術作品の完成にも多大な貢献をしているようだ。
例えば、B’zやGLAY、JUJUのMV、映画だと『翔んで埼玉』や『るろうに剣心』などもそうらしい。

ここを舞台とした作品はかなり多い。
訪れてみれば、“あの舞台ってここだったんだ!”と納得すること請け合いだ。

それにしても、こんな形で活用されるなんて。採石職人たちのいったい誰が予想しただろうか。
芸術品を創ろうなんて微塵も思っていない。ただ、石を採る。それだけに心血を注いで形作ったこの空間が、結果的に数多の芸術作品を創り出す糧となっている。不思議だ。

何事においても、全力で打ち込んだ末にできあがるモノというのは、人の心を動かす芸術となる。
採石と創造。二つの想いが交差するこの空間で、そんなことを教えられた気がした。

大谷資料館
栃木県宇都宮市大谷町909
028-652-1232
9:30~16:00(コロナウイルスの影響により、しばらくは左時間にて開館)
大人700円、小中学生350円
http://www.oya909.co.jp/
※他県からの移動制限が解除されるまでの間は、栃木県在住の方のみ入館可能