山形編 遊びじゃないんだよ!

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

山形にある山寺『宝珠山 立石寺』。
信仰の対象としてはもちろん、奇岩並ぶ山道に設えられた800段以上もの石段を登っていくことから、観光名所としてもその名を轟かせている。

「やっちまった・・・(汗)。日曜日にここを訪れてしまうなんて」

名所であるから、週末は多くの観光客が境内にひしめいている。
美しい緑や岩肌を捉えようとファインダーを覗けば、ほぼ確実に人間が画角に入ってしまう。
わかってはいるのだ・・・。私もその“観光客”の一人なのだから、不満を漏らす方が醜悪だと。だがそれでも、
「煩い・・・・・・」
とつぶやいてしまった。
普段は人のいない平日に歩き回る機会が多いから、余計にそう感じてしまう。

一段、二段と登るたび、煩悩が消えていくといわれる石段も効果はなく。
眺望のいい五大堂に辿り着いたので自撮りを試みようと思えば、颯爽とカップルや団体旅行客や、果てはその場にゴザを敷く輩まで現れて。
我ながら短気だとは思うが、心中穏やかじゃないまま下山することになった。

30分かけて撮った一枚。
私のように固執したりしなければ、山寺一帯を見下ろす絶景は登り切った者への最高のご褒美のはずだ。

「このままじゃ終われない」
麓の茶屋で休みつつ、何か他にも見どころはないかと地図を開く。『芭蕉記念館』、『やまがたレトロ館』・・・うーん、いまひとつピンとこない。
と、やや東を見ると、道路の通じていない場所に『垂水遺跡』なる場所を見つけた。
「あの~、“たれみずいせき”ってどうやって行けばいいんですか?」
と茶屋のご婦人に尋ねると、一瞬ピタッと動きが止まる。
「あそこは良いところだけど・・・。本当の山道だよ? この前も猿に襲われて帰ってきた若い子がいたし。大丈夫? 寂しくない?」
寂しいのはいつものことですと答えると、立石寺の麓からその遺跡へと抜ける裏道を教えていただいた。

歩を進めていくと墓地に差し掛かる。そこの角地、行き止まりに見える場所に、たしかに人が通ったであろう獣道がひっそりと開かれていた。

立石寺の参道とは真逆。舗装もされていないが、廃墟もあるから“道”ということで間違いないだろう。
そう信じて、一瞬躊躇った足を動かし始める。はじめはやや荒れたハイキングコースといった様相の道が、やがてぬかるんでいき、ちょっとした小川を渡ったり、倒木をくぐったりとさながらアスレチックのようになっていく。

修験場なる古代の稽古場に佇んでいる、毘沙門天岩なる大岩。
ところどころ看板があるから、“正しい道を進んでる”という感触はあるのだが・・・。
次の道は、たぶん写真の真ん中あるかなり細いところである。本当にこっちか?
どうだろう、皆さんには道が見えるだろうか。
道幅が約30㎝ほどのところもざらにあり、歩くことで時折道が崩れ、土砂が斜面に転がっていく。
もう、これ道じゃないよ・・・。

汗に群がる小バエを叩き落としながら20分ほど早歩きで進むと、表面にポツポツと穴が空いた岩壁が見え始める。
「着いた!」

恐らく水の流れでできたであろう空洞には、鳥居や文字の刻まれた石が安置されている。
ここが立石寺と同じく、いやもしかしたらそれ以上に厳粛な修行の場だったのでは。

立石寺の参道と違い、周りに観光客の喧騒はない。
虫もいるし足場も悪いが、代わりにここには、まさに“閑さや~~”といえる静寂があった。

こうして、辛い経験をして絶景を独り占めする。やはりこれこそが、旅の醍醐味だ。旅は観光じゃない、遊びじゃないんだから・・・。
汗に目を細めながら、顔をニンマリとさせた。


その後、そこに居合わせたカメラマンの方の案内で、街道に降りる“正しい道”を案内される。
約5分後。超簡単に山を抜けられて、“なんだよ。楽に行ける道があるじゃん”と苦笑する自分がいた。

この絶景をご覧になりたい方。立石寺は東、『千手院』脇から登ると簡単ですぞ!