長野編 戻らない夏休み

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

“コロナウイルスの影響により、例年より遅れて夏休みが始まり~~”
なんて報道をチラチラ目にするようになってきた。短くなるとはいえ、子供たちが一年で最も楽しみな季節がやってきたことは微笑ましいことだ。

長野は、私が子供の頃よく母親に連れてきてもらった場所だったので、走っていると遠い日の思い出が蘇ってくる。
「童心に返って、私も夏休み気分に浸ってみるか・・・」
長野市街から犀川沿いに南下し、安曇野へ至った。

松本盆地は西にある安曇野は、広大な大地に清流が流れる肥沃な田園地帯。
雪化粧をした北アルプス連峰を背景に、青々と揺れる稲を眺めるのは少年時代のお気に入りだった。

しかし、生憎の天気のため寂しい風景に。

“まぁ、時間が経てば晴れるかもしれない”と期待し、昔訪れた場所を記憶を辿って巡ってみることにした。

大王わさび農場。
北アルプスの伏流水が湧き出る広大な敷地を活かした、日本を代表するわさび田である。
わさびを直射日光から守る黒いネット“寒冷紗”は、上から見るとさながら黒い大河のようで一見の価値アリ。
子供時分はわさびなんて食べられなかったから、代わりに清流で川下りできるクリアボート体験を思い出したが、コロナの影響でサービスは休業中だった。

もちろん、わさびを育む清流自体は健在である。
観光客も多かったが、子供たちがこの豊かな川の飛沫を浴びて遊べないのは、残念。

わさび丼を食べたかったが、食堂はお客さんでごった返していたので遠慮して先へ。
「それから昔は・・・トンボ玉なんて作ったりしたな」
と、ガラス工房やお土産処、宿泊施設が複合する『安曇野の里』へ向かってみる。
“あの日は、あそこで半日は遊んだかなぁ”と胸を膨らませて訪れてみたが・・・。

「なんかこざっぱりしてないか?」
トンボ玉の制作体験ができる工房も、土産処も閉まっていた。
幸いガラス工房は開いていたので、そこのお姉さんに話を伺ってみる。

「お土産屋さんは、去年の増税の時に閉店しちゃったんですよ。レジを入れ替えられないほど経営が悪化していたみたいで。とんぼ玉楽舎の管理人さんは元気ですが、コロナの影響でしばらくお休みしちゃってるみたいです。さびしいですよね」

少年時代の思い出が、ガラスの如く砕け散った瞬間だった。

ついでにガラス工房についても聞いてみると、安曇野は日本のガラス工芸の草分け的な、由緒ある場所だそうだ。
「昔は神奈川の川崎と、ここぐらいでしかガラス工芸を学べなかったんですよ。
ガラスブームの時はそりゃあ盛り上がったんですけどね。今はね・・・」

その後、乗馬クラブやワイナリーにも行ってみたが、客足は少なく、寂しい雰囲気を拭いきれない。
「あの頃みたいに、たくさんの人で賑わってると思ったんだけどなぁ」
地方観光業の限界だというのだろうか。心に落ちた暗い陰は、拭いきれなかった。

往年の思い出を追いかけても、あの時の光景は二度と見ることはできないのだ。

そんな当然の事実を切なく思うと同時に、いくら“今年は特別な夏”と言われても、コロナの影響で大切な夏休みの思い出を削ぎ取られた子供たちの無念を思うと、やるせなくなる。

結局、最後まで霧は晴れず。
揺れる稲の中を快走してみても、胸に去来するのは、ただただ、寂しさだけだった。