準備編①  社会人脱落

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

限定品。一生に一度。最終回――といった言葉に、人間は弱い。
もう会うことはないだろう。もう来ることはないだろう、といった感情に、私たちはどこか切なさに近いものを抱いてしまいがちだ。

たぶん、ほとんどの人が・・・。

退職届からはじまる旅

「じゃあ、これを書いて、保険証を提出してくれれば、それで終わりだから」。
私の最終回は、わりとあっさりとしたものだった。
退職届と、最後のお給料の振込先とか、最低限のものを書いて終了。
・・・いやまぁ、複雑な手続きを強いられるのも嫌なので、これで無論いいのだけれども。拍子抜けといえば拍子抜けである。
「お疲れ様」と言われることもなく退社する。これもまた、拍子抜け・・・。いや、単に寂しいだけか・・・。

まぁ、いいのだ。世界に会社員が何千万人いるのだろう?一人が辞めるたびにあーだこーだ、寂しい・わびしいなどとのたまっていては、社会が回らない、ということなのであろう。
だから私も対抗して、会社には一切の“切なさ”ってやつを感じずに出てきた。
むしろ切なさを感じてしまうのは、毎日歩く通勤路、毎日すれ違う人、毎日食べる吉野家の牛丼、といったところ。これらが”毎日通う・・・”から、”毎日通った・・・”に変化するあたりに、どうにも感慨深いものを感じてしまう。

さよなら通勤路、さよなら勤務地。私は今日、会社を辞めた。

今の気持ちは・・・もちろん不安だと答えたい。人はみな、学校・会社に行くのが当たり前、そんな世の中の一方通行な流れ、循環から、一人だけ外れていく孤独感。誰でも持っている命綱を切られたような絶望感・・・。

ただ、それでいい。今の自分には、命綱はなくていい。
例えばですよ? 目の前にこんなバイクがあって。そのキーをその手に持っていたら。あなたならどう思うだろう?

どこまでも乗り続けたいと思わないだろうか?ただひたすらに、前へ前へと移動できたら・・・なんて思わないだろうか?
私は、そんな魅惑に負けてしまったのである。命綱なんてものがあったら、前へと進めないじゃん!と思ったから、切っちゃったのである。その、なんと清々しいことか・・・。

目の前には、無限に歩ける世界が広がっている。

私はこれから、旅に出る。