


風来記 締めくくりの言葉

文・写真/侍ライダー 木村峻佑
「熊本に行くんだったら、当然阿蘇も行くよね? あそこはライダーの聖地だよ」
佐賀で給油をしていると、居合わせたハーレー乗りのおじさんにしみじみとそう言われる。
“ライダーの聖地”、ですか…。
仮にも旅をしている身なので、そう呼ばれる場所はけっこう巡ってきた。宗谷サンセットロードや三瓶山、角島大橋などなど。
阿蘇“山”という名のごとく、ビーナスラインみたいなワインディングが楽しい道なんだろう、きっと。
それはそれで楽しいんだろうが、他と似たり寄ったりなんじゃないだろうか。
もちろん軽視している訳ではなく、行きたい気持ちはあったので、数日後、熊本市街より阿蘇へ向かう。
「見えてきたな…」
流石にデカい。
そして遠目からでも緑が少なく、荒涼としているのがわかる。活火山の特徴だ。
えぇと、大観峰っていうところが有名だったよな…と標識を見ていると、[←大観峰]との案内が。
あれ、阿蘇山は目の前に見えるけど?
疑問を抱きながらも看板を信じて左折してみる。
市街地の景色はすぐに緑覆う山道へと変貌し、緩やかに標高を上げていく。
“なーんだ。やっぱりただのワインディングじゃないか”と心の奥で笑っていた、その時だった。
急に景色が開け、空が目の前一面に広がる。ついさっきまであった緑の木々は跡形もなく、目の高さには見渡す限りの白銀に輝くススキが。
「なんじゃ、ごりゃあ~~~!!」
思わず絶叫した。なんなのこの景色。
阿蘇ミルクロードはワインディングなんかではない。稜線沿いをひた走る、いままでに見たことのない類の絶景道だったのだ。
一瞬で悟った。
ああ、これは確かに、聖地だ…。
行きもせず勝手にあれこれと想像していた身が、恥ずかしくなる。
件の大観峰に到着すると、阿蘇市を眼下に望む壮大なパノラマを拝める。前方に見えるのがいわゆる阿蘇山だ。
信じられるだろうか。市街地は一見ただの平地に見えるが、実はこれ窪地、カルデラなのである。
いま私が立っている峰が本来の地表であると知ると、なんだかクラクラしてしまった。
なるほど…これは確かに、阿蘇山へ直行するのはもったいなかった。
自然の力は、本当に凄い。
阿蘇中岳の火口を拝み、県道111号で南下すると夢のような時間も終わりを告げる。その終わりの瞬間までカルデラを覆う田畑が見られるから、真の意味で終始瞬きができない道であった。
“聖地”だとか“定番”と言われると、ちょっと斜に構えてしまうが、やはりそう呼ばれる相応のモノが佇んでいるようである。
阿蘇・ライダーの聖地。
ベタな題材になってしまったが、それでも帰ったら、友人たちに声を大にして教えて回りたいほどの魅力がある。
有名だからといって食わず嫌いせず、一度試しに走ってほしい。