宮崎編 岩と波の彫刻

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

正直言うと、不安だった。
沖縄の、あの凄まじく美しい海を見てしまったら、
本土の海じゃあ到底満足できないんじゃないかと…。

だが、杞憂だった。

「おお…これはこれで見応えがある!」
宮崎の青は沖縄よりも深く、名物の波食棚…いわゆる鬼の洗濯板と相まって、あちらにはない力強さを見せつけてくれる。
優劣をつけるなんて無粋だ、と知らしめられた。

洗濯板と相まって宮崎の海を特徴づけているのが、フェニックスと呼ばれる南国風の樹木である。
これが海岸線沿いはおろか宮崎市街にもびっしりと生えているので、“まだ沖縄にいるんじゃないか”なんて錯覚してしまう。

道の駅フェニックスで朝の支度をしていると、ヤマハ・フェーザー乗りのお兄さんに「すっごいバイクですね!」と声を掛けられる。
ロケットⅢの恩恵だ。

宮崎についてはあまり詳しくないので、さっそくこの縁にあやかって“オススメスポット”を聞き出してみる。
「うーん、宮崎かぁ…」と当の地元民は頭を抱えた後、「あっ、日向に行けば面白いものが見られますよ!」と閃いてくれた。

国道10号沿いにひたすら北上し、県道15号へ折れ曲がる。高い波を眺めながら岬のワインディングを上ると、お兄さんの言葉通り、面白いものが現れた。

その名もクルスの海。お分かりいただけるだろうか。“クルス”の名の通り、波によって岩が十字に裂かれているのである。
私は信徒ではないが、目の前に横たわるそれを見ていると“ここで祈れば願いが叶う”という逸話も信じられる気がした。

珍しく恋人のためのソレではない鐘を打ち鳴らすと、旅の成就を祈願する。
すると神が応えてくださったのか、なぜか通り雨がドザッと降りだしてきた。
えぇ………。
確かこの辺に、もう一つ面白い場所があるって言ってたな…。
逃げるようにしてやや南下し、『大御神社』へ。

境内にある鵜戸神社で聞くには、“白龍”が見られるらしいのだが…。

「ここ、進むのかぁ……」
高さはそれほどではないが、参道(?)は海沿いの断崖絶壁。バックパックがつっかえないかと不安になる細坂の先では、無明の闇が口を広げている。

ここまで来たんだから、行くかぁ…。
フナムシの大軍を追い払いながら、波打ち際へ。

山形で見た裏立石寺こと垂水遺跡に似ている。
しかしこちらの洞はけっこう広く、行き止まりらしく風の音はしないが、さざ波が反響していてちょっと恐い。
入り口の鳥居が“人が来ていい場所”だと告げてくれなければ、引き返してしまいそうな雰囲気だ。

鳥居をくぐり、入り口から差し込む光を頼りに恐る恐る進むと、最奥部に小さな祠を発見。
その脇には、“ここから入り口を振り返って下さい”との立て札が。
まさか…、まさか…、そういうことなのか。
そんな出来過ぎた演出があるのか。
期待と不安を胸に、ゆっくりと振り返ると…。

いたっ! 白龍だっ!
こじつけ…と言えばそれまでな形だが、私には見える。天へと昇る龍の姿が。
たまげたなぁ…!

暗闇を切り裂く、光の刃が眩しすぎて、思わず目を細めてしまう。これも後光って言えるのだろうか。

クルスの海といい、思わず神というものを信じてしまうような自然の力が、波と岩を操る彫刻師が、宮崎には住んでいるのだな。

四方から反響するさざ波の音はもう恐ろしくなく、それどころか神々の歌声のように聞こえてしまう。
それに心を寄り添わせ、目をつむっていると、数秒が、数分が、数時間にも感じられてしまうのであった。