高知編 四国の路

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

テントから抜け出て、戦慄した。

先が見えない。
ここ数日は季節外れの暖かさが続いたからか。はたまた、若干山の方へ来たから寒暖差が激しいのだろうか。松野町を横断する国道381号は、厚い霧をまとって前方の視界を塞いでしまっている。

「まぁ、でも…だいじょぶでしょ」
今日通る予定の道は、愛媛~高知の境より四万十川沿いを下っていく国道441号。国道であるし、なにより四万十川といえば全国的にも有名な清流である。道は整備されているとみて間違いないだろう。
幸い路面もそこまでウェットではないので、ロケットⅢに跨り高知県へと入った。

ほどなくして川下りの看板などが見え始め、眼下には雄大に流れる四万十川が見え始める。思った通り、ある程度観光向けになっている道のようだ。
霧も晴れてきたし、清流を眺めながら優雅に流すか…と思っていた矢先、視界に入ったのは“この先すれ違い困難!”の看板。

「…っマジか!」
いきなり道は極端に細くなり、木々の隙間から崖沿いのキツいカーブが見えたので慌てて速度を落とす。そして何故だかな、こういう時に限ってバスと鉢会ってしまい、たじろぐハメになってしまった。

“私のバイク……! 後戻りしづらいんすよ…!” 
そんな気概が伝わったのか、バスに後退していただきその場はクリア。
「なにここ…本当に国道なのか?」

まぁ、今までにも一部酷い国道はあったし、そういうものか。
そう自分に言い聞かせて再びアクセルを回したのだが…その後しばらくは、ひっきりなしに現れる“すれ違い困難”狭路と格闘することになったのだった。

そんな心中穏やかではない私の隣を、四万十川は実に優雅に、穏やかに流れ続けている。
その流れは川面が鏡と化すほどゆっくりで、眺めていると自然と心が落ち着く。
途中途中で休憩しながら、私ものんびりと国道ならぬ“酷道”をいなしていった。

さて、そんな四万十川の名物といえば沈下橋である。
その名の通り増水時は沈んでしまう橋なのだが、欄干も何もない石造りのため逆に壊れにくい簡素橋。
ここはそれが多く残っている場所で、こうして走っている中でもいくつか見かけたのだが…ようやく道幅が安定してきたころ、見つけてしまった。

バイクで通れそうな沈下橋を。

………いや、待て待て。

そりゃあせっかく来たんだから渡ってみたいよ? バイクで。
でもさ、これ冗談じゃなく、落ちるよ? それこそ急に突風なんか吹いたら、この旅…どころか人生終わりよ?
「落ち着け、落ち着けよ。蛮勇は勇気とは呼ばん…!」

そう言い聞かせ徒歩で沈下橋を歩いていると、颯爽とやって来ては難なく往復し、記念撮影をして去っていく地元ライダーが。
“四国の道はなかなかですけどね。だからこそ、四国のライダーは上手いって言われてますよ”
そんなトライアンフ広島スタッフの言葉が思い出される。

「私も上手くなるーーー!」

もう、ヤケだ。
歩いてみてわかったが、道は遠目に見るほど細くはない。風も凪いでいる。私だって日本中走ってきたライダーなんだ、なんてことねぇー! いったる!

滑走路のように真っ直ぐ伸びた道に機首を合わせ、ハンドルは絶対に曲げんと腕に言い聞かせ。右手に勇気を込め、スロットルを開ける。

「ウオオオオーーー!!!」
10秒にも、1分にも感じられる時間を乗り越え、対岸に辿り着いた。
恐らく周りから見れば難なく…という感じなんだろうが、心臓はバクバクである。
緊張が弛緩しないうちに転回し、往路も………クリア!

「やったぁーーーー! 俺も仲間入りだァー!」

これ如きで絶叫している時点で、四国のライダーから見れば冷笑ものなんだろうな。
多分ここを渡らなかったら、かなり後悔をしていたような気がする。達成感に満ちた私の背後を、工事用の幅広トラックが余裕ですり抜けていく。
「ああ…やっぱ四国の人はすげーなぁ」