


「忘れられない可愛さ」

文・写真/侍ライダー 木村峻佑
「徳島って~ どこか行っておいたほうが良いところってあります? 山以外で!」
“ん~~徳島のオススメは山がほとんどなんだよなぁ…”
徳島出身の知り合いに、地元のオススメを聞いてみる。
だが、この寒い時期に山はなぁ…。ただでさえ四国の道が一筋縄でいかないのは、四万十で思い知った通りだし。
“ちょっと無理矢理だけど、お遍路を少し回ってみたら? 徳島は1番札所があるし、8番くらいまでなら近そうだから”
「ほほう…」
思えばこの旅、神社に寄ることはあっても寺に寄ることはあまりなかった。いい機会だし行ってみようか。
お遍路の準備といえば定番の白装束のほか、お納経…神社でいうご朱印を納める納経帳なども用意しなくてはならない。
装束はともかく、納経帳がないと回った証が残らないから、私も欲しいのだが…。
「あの、全部回る予定がなくても、納経帳って頂いてもいいんですか?」
「……お遍路される方の心の持ち様の問題ですので、私共から何か言うことはできません」
「白装束って着ないとダメ…?」
「それも参拝される方によりますので……」
ま、要するに自由ってことか。
納経帳を手に入れたら、いよいよ霊場へ出向くことになる。
お参りの仕方もちょっと複雑で、参拝の際にはお札に自分の名前と住所を書き、納札入れにそれを納める(お札は各所にあるが筆記具は置いていない)。
さらに写経をするそうだが、先ほどの係の方曰く、
「そこまで熱心な方も少ないので…唱えるだけで大丈夫ですよ」と、これまたフリーダムな発言をしていたので、ガイドを開いてお経を唱えさせていただく。
これを、本堂と大師堂の2ヵ所、つまり一霊場につき2回繰り返すのだ。
失礼を承知で言うが………ちょっと面倒、かも。
“これ、今日だけでどのくらい回れるかな…”と正門を出ると、白装束のご老人に「写真、お願いしてよろしいですか?」と頼まれる。
もちろん二つ返事でスマホを借りレンズを向けると、ご老人は門の前で万歳ポーズ。
「これから始められるんですか?」
「いえ! 全部回ってきたところなんですよ!」
……マジか。
聞くと、徒歩で33日かかったらしい。お遍路には詳しくないが、それってかなり早いんじゃないか? 健脚に恐れ入りながら、私はバイクで次の札所を目指した。
二番札所・極楽寺は聞いていた通りかなり近く、バイクで5分と経たず到着できた。
水子地蔵の前で手を合わせつつ、札を納めてお経を唱え、300円払ってお納経と御影をいただく。
さぁ次だ。
勝手がわかれば意外とスムーズにいくもので、大銀杏が美しい五番札所・地蔵寺にも日が高いうちに着き、納札とお経を済ます。
さて300円払ってご納経を……ん?
「300円、払う……?」
唐突に頭が冷静になってきた。
“今日はここで5ヵ所目だから、都合1,500円………! ハッ”
「やめだ、やめだァーーー!」
こんなことを叫ぶ私は浄土へ行けないかもしれないが、とにかく今回は、ダメ。無理。
なるほど、そりゃあある程度自由になる訳である。この旅は、お金がかかりすぎだ。
ただでさえ長旅で宿代などもかかるというのに…。そういう意味でも、半端な覚悟ではやらない方がいいのだろう。
「ほんの短い間でしたが、お世話になりました」
六番札所へ向かう遍路に頭を下げ、山へと背を向けた。