


「忘れられない可愛さ」

文・写真/侍ライダー 木村峻佑
高松城を通り過ぎ、瀬戸内海に面する桟橋までやってきた。
地図で確認してみると、本土はそう離れていない。目の前遠くに見える影が、岡山だろうか。
「小豆島にも、行ってみたいもんだが…」
フェリーにロケットⅢを載せると、片道約2,000円。決して高い料金ではないのだが、いまはもうそれを払う余裕もない。
気が付けば穿いていたカンフーパンツにも穴が空いており、そこに流れ込む海風がスースーして冷たい。……いよいよもって“みすぼらしい旅人”ってカンジ。
ま、陸路にだって気になる場所はおおいにある。今日は道中で教えていただいた、金刀比羅宮(ことひらぐう)に行ってみようか。
国道32号を南下し、琴平町。
一帯は田畑広がる穏やかな農村風景だが、看板に従って参道の方に進むと、道路は石畳となって土産屋や駐車場の看板、それに付随する案内員の方々が現れる。
「よーし、上ってみようか1,368段!」
さすが全国に散らばる金毘羅さまの総本社というだけあって、石段は美しく整えられており、上りはじめの市場あたりこそ傾斜はキツいものの、正門をくぐってしまえばその後は比較的なだらか。まだ9時ごろと朝早いこともあり、人通りも少なくのんびりと歩を進められた。
本社までで785段。その裏手からさらに奥社まで続く石段を上り、10時ごろには全段上り切れた。
「ところどころはキツかったけど…金華山や大山神社に比べたら、全然マシかな~」
やっぱり石段で整備されているっていうのは、偉大なことである。
さて。伸びをすれば、少し早い腹の虫が鳴いてくる。
香川といえば…やっぱ“アレ”ですよね。
涎を分泌させながら、石段をトントンと下っていった。
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先ほどまでの喧騒から離れて、人気のない山間へ。徳島との県境も近くなるほど入り込んでいったあたりで、お目当てのものが見つかった。
山奥のうどん屋『山内』。
なるほど近隣住民の話題に上っているだけあって、こんな場所なのにお客さんが多そうじゃないか。
400円のぶっかけ大を注文(小は300/特大は500円)。
それにゲソ、とり天、牛肉コロッケを入れて740円を支払い、席に着く。
揚げ物デッケェな、オイ。
お世辞にも新しいとは言えない店内は薄暗く、テーブルも学食で見るようなものが多い。それでも背中からは、「ご注文は?」「アツアツぶっかけ大で!」という接客の声がひっきりなしに聞こえてくる。
この安さだし、やっぱり香川県民はうどんが大好きなんだろう。
これで味も旨けりゃ言うことナシなんだろうが…。
実は私、そば派である。
ハッキリ言って、いままで好き好んでうどん屋に入ったことなど一度もない。
「さぁ、そんな俺に旨いと言わせてみせろ、香川ァ!!」
どんぶりの中に箸を突っ込み、太麺を引きずり出して汁ごと口の中へすすり込む。腔内へ広がる出汁の旨味。いい具合のところで噛み切ろうと門歯を麺に食い込ませた途端、
“プルンッ”
「なっ、」
なんだこの弾力はぁああ~~~!!
プルンっていったぞ、プルンッって!
その未だかつてない感触を確かめるように、今度はそれを咀嚼してみる。
「なんって歯ごたえなんだ…!」
簡単にはやられまいという、太麺の声が聞こえるようである。だが、ひとたび切れ目を入れれば歯はすうっと麺を貫通し、例のプルンッという食感を腔内に響かせる。
いままでうどん嫌いの要因となっていた、あのパサパサする不快な抵抗力が全くない!
これが、これが……コシかぁあああああ!!!
生まれてこのかた25年、初めてうどんの“コシ”ってやつを知った気がする。
うめぇ! うめぇようどん!
“日本人としてこれは知らにゃ損だ!”
県民たちに混じりながら、ズルズルズルズルと麺をすする音で店内を埋め尽くす。その耳心地の良い音に心を傾けていると、5分も経たずにどんぶりは空になってしまっていた。