大阪編 瀬戸際

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

「ここがユニバーサルスタジオちゃんですか…」

「ま、入らんけどな!」

この記事が掲載される今でこそ、大阪府は緊急事態宣言解除に向かうなどコロナ禍に対して前向きな姿勢となっているのだが、私が訪れたのは、GoToトラベル中止の声が上がっていた12月はじめのことだった。

大阪はぜひ練り歩いてみたいところではあったのだが、こんな状況ではそういう訳にもいかない。
ひとまず県境をまたいだ後は、人が少なそうな沿岸部を流してみることにした。

「山下さん、いただきます!」

淡路島や神戸の街が見える、『新夕陽ヶ丘』で山下さんから朝いただいたお弁当を食べる。
シェフの顔を思い出してしまう切なさと、大阪を満喫できない悔しさとで、胸中は少し沈み気味である。

東京に並ぶ巨大都市で、東京とは異なる雰囲気を持つ、大阪。私はそこに、生まれてこのかた一度も入ったことがなかった。
東京で働いていた頃は、ウルフルズの『大阪ストラット』を聴いたりして、“いつか行ってやるぞ!”と胸を膨らませていたものである。

が、いざ来てみれば、それができない。
「行ってみたかったなぁ…。通天閣、アメ村、心斎橋。飛田新地……は、私にはちょっと早いか」

ふて腐りながら埋立地であろう角ばった沿岸部を走り続けてみたのだが、あまり観光向けの場所は見つからない。てっきり、東京のお台場のような場所があるのかなぁ~なんて思っていたのだが。

舞洲から堺まで南下してみても、あるのは工場と港と、たまに公園。行き交うトラックの排気ガスが、時折ノドをつっつく。大阪というのは、本当に商業の街なんだなぁ。

「せめて走るだけでも、街中を眺めてみようか…」

今日の宿は大阪北部の十三(じゅうそう)。堺から今度は国道26号を通り、街中を突っ切って北上してみることにした。
幹線道路を走ったところで、楽しめるものなんだろうか…と思っていたのだが。

「うお~~~! これが大阪駅か! デッケェ~~!」

大阪のビル群は、走りながらでも驚嘆をもたらしてくれた。
大阪といえば道頓堀でデカいカニがワッシャワッシャ動いていて、威勢のいいヒョウ柄のおばちゃんが自転車を漕いでいるイメージだったのだが…。
テレビであまり見ないだけで、北区は高層ビルが連なり、スーツ姿の男女が行き交うクールな街でもあったみたいである。

思わず、日が落ちてから徒歩でちょっと散歩に来てしまった。
どうだろうこのカッコよさ。東京に負けず劣らずのネオンサインではないだろうか。
タコヤキ&大阪城のイメージしかない人は、ぜひ北区も見てみてほしい。

…とまぁ感動はできたが、いよいよどこに行っていいかわからなくなってしまったその夜。
私は切り札として、山形で出逢った大阪在住の旅人に、電話をかけ、教えを乞うことにした。
「あ~十三だったらね、その近くに、も~虫網で捕まえられるぐらい飛行機が見える場所があるで~!」
…よし、なんとかネタにできそうな情報は得られたぞ。

翌日。
大阪と兵庫にまたがる、大阪国際空港のそばにある伊丹スカイパーク…ではなく、南端の千里川沿いの土手。
陽炎で歪む滑走路を眺めていると、背後からゴォオオオという轟音が聞こえてくる。振り返ると。

「うおおお…!」

目と鼻の先を、巨大な金属の塊が一瞬のうちに横切る。
それは急激に、だがゆっくりとした挙動で、滑走路の上にふわりと降り立った。
駐車場はもちろんベンチなどもないただの土手だが、日本で唯一と思われる光景が、そこにはあった。

「これは…わりかし良い思い出になりそうだ!」

何機か飛行機を見届けた後、近くに停めてあったロケットⅢに跨る。
上機嫌でエンジンをかけ、ギヤを1速に……アレ??
〝スコン、スコン″
ギヤが入らない…?
7、8回ペダルを踏むと、ようやく1速に入り、タイヤは回り始める。だが、そこから今度は2速に入らない。ニュートラルから抜け出せなくなってしまう。2速に入れられたとしても、走行中にガシャンと外れてしまう。

「……ヤバい(汗)」

こんな頻繁なギヤ抜けは、十中八九トランスミッション系のどこかが傷んでいる、欠損しているとしか思えない。
だとしたら、そうそうすぐに直せるケガではないぞ、これは。

「……どうする? どうしよう?」

東京まで残り、あと7県。
瀬戸際のデッドヒートが、今、幕を開けた。