東京編 【最終話】風の翔ける先

文・写真/侍ライダー 木村峻佑

国道16号。
2020年3月1日に走った道。始まりの日に走った道。

横浜から北上すると、川崎に入るあたりでそれは15号に変貌し、程なくして多摩川に差し掛かって、辿り着いた。

「……少し、遠回りをしていこうか」

そのまま国道15号を北上し、大森や品川、いつの間にか大分完成している高輪ゲートウェイ駅を横に流す。港区に入ったあたりで右折すれば…

「あーーーー、懐かしい!」
東京で働いていた頃はやたら滅多と走った、レインボーブリッジだ。
このまま、よく走っていた東京湾のツーリングルートをなぞってみよう。

お台場の暁埠頭から中央防波堤に渡り、東京ゲートブリッジを渡る。
快晴ではあるがすっかり年末の空気で、ひとたび立ち止まろうものなら体が震えて止まらなくなる。

「お、またお目にかかれるとは…」

そんな私にエールを送ってくれているのか、すっかり雪化粧をした富士山が私を眺めてくれていた。うん、もう少しだからね。頑張りますよ。

そこから亀戸駅を南から北へ縦断して、スカイツリーを見上げて。その根元を横切って。
言問橋をスタンディングで渡れば。
「………もうすぐだね」

 

貴方は、旅に出たことがあるだろうか。
貴方は、見ず知らずの土地で一人ぼっちになったことがあるだろうか。

機械を使わず、夏の暑さと冬の寒さに幾日も向き合ったことがあるだろうか。

屋根を持たずに一晩過ごし、満天の星空を見たことがあるだろうか。

一見退屈そうに見える人生だが、その気になれば、いつだって誰だって、大冒険の主人公になれる。

私は、たくさんのものを見つけた。

見たことも聞いたこともない道を歩く、面白さを。

見たことも聞いたこともない景色がくれる、感動を。

見たことも聞いたこともない人たちがくれる、笑顔の暖かさを。

もしあなたが、知らない世界を覗いてみたくなったら。
“興味があるから”とか、“現状が退屈だから”とか、あるいは“ここから逃げ出したいから”とか、どんな理由でも構わない。
とにかく、ちょっと遠くへ出かけてみようかな、と思ったら。

あなたの横をすり抜ける、風が翔けてゆくその先に、どうか想いを馳せてみてほしい。
どんな形であれ、あなたが自分の意志でその一歩を踏み出したのなら。

きっとその先に、一生モノの宝が転がっている。

それは慟哭か、歓声か。
人目をはばからずあげた、寒空を切り裂くような叫び声が、真紅の塔にこだました。

「本当に、やり遂げたんだよな……!?」

走行距離約1万7,115.2㎞

胸中に湧き上がる想いは、ただただ“信じられない”というものばかりであった。
あまりにも無謀に出発して、あまりにも行き当たりばったりで。
明日を生きられる保証すらもないまま、ただがむしゃらに旅を続けてきた。
安全も、金も、賛辞を得られる確約だってない、強行路。
それでも、成し遂げられたのだ。

いや、むしろそんな縛られない旅路だったからこそ、
「…楽しかったなぁ………っ!!」
自由だった。
間違いなく、人生で最大級の一年だった。

ようやく実感を得た心は、次いで旅の思い出で満たされていって。
さすがに人目があるから涙は流さなかったが、嗚咽をこらえながら笑顔になるという、これまた奇妙な顔をしてしまう。これが嬉し泣きってやつなのか…!

ひとしきり感傷に浸り、気持ちが落ち着くと。
最後に去来したのは、意外な感情であった。
「………終わってみると、案外あっけなかったかもな…?」

なんか、成すべきことをただやっただけ、って感じ。
我ながら、調子の良い性格である。
ああダメだ、また次の旅のことを考えてしまうぜ。

人生という旅路に、終わりはない。
だが、ひとまず今回のところは、ここで一旦、筆を置かせていただくとしようか。

ありがとう。私の愛した日本。
ありがとう。私の紡いだ風来記。
きっとこの旅は、一生忘れられない宝物になるだろう。

一陣の風が長羽織を翻したのを合図に、ロケットⅢに跨った。

風来記
おしまい